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自助グループの話し合いに学ぶ

自助グループという助け合いの場がある。

自助グループとは、なんらかの困難を抱えた人たちが仲間同士で自発的にあつまり、話す場のことをいう。

アメリカのアルコール依存症の当事者の集まりからはじまったという自助グループにはいくつかのルールが存在する。

 

1 自助グループで話されたことは外で一切話さない。

2 同じ参加者同士でもその時話されたことを会話に持ち出さない。

3 参加はあくまで自発的であり、強制はしない。

4 参加者は互いに対等であること。

5 全身全霊で話を聴くこと。否定もしないければ、同意もしない。

 

これまで私は、先ずは肯定の意を示すために相槌をして反応すること、そして相手の話を受け入れることが良い話し合いをつくる方法だと思っていた。しかし、自助グループの5つ目のルール「全身全霊で話を聴くこと。否定もしなければ、同意もしない。」には、これまで考えもしなかった話し合いへの新しい視点があった。その可能性について考えたいとの思いから、今回はこの記事を取り上げることにした。

自助グループでは、例えば1時間半の時間の中で、参加者が8人なら、平等にひとり10分を持ち時間として話していく。車座になって、ひとりひとり持ち時間10分の時間、何を話してもいいし、話さなくてもいい。ただ、その10分はその人の時間として尊重して、他の仲間達は全身全霊その話を聴く。

順番に話が始まった。自分が小さい時に親から虐待された話。自分が今目の前の子どもに暴言を吐いてしまった話。今自分が抱えている人間関係。

どの人の話も、どの人の話も圧倒される重みがあった。
そして、不思議なことにときおり、自分の話を聞いているような錯覚に陥った。自分よりずっと年上の他の人達が、自分の育ちの中で抱えた苦しさを言葉にして紡いていく、その深さと真剣さに私はひるんだ。

そして筆者が話す番になる。

私はおずおずと話し始めた。
私がなぜここに来たのか。自分の育ちの中でなにが苦しかったのか。父が姉妹の中でなぜか私にだけ手をあげることが怖かったこと。
そのことをどこか他人事のように軽く話したことを覚えている。

話し始めて5分も立った頃だろうか。

ふと場を見渡すと、何人かの人が私の話を聞きながら涙を流していた。
否定でもなく、同意でもなく、ただ、涙を流していた。
それを見た時に私の中で何かが、弾けた。
私のこんな価値のない話をきいて涙している人がいる。
気が動転した。今まで自分が軽く考えていたこと、考えないようにしていたことへの扉が開いた。
あのときの衝撃をいまも昨日のように思い出せる。

同意や肯定もされない中で話す感覚を筆者は以下のように表現する。

私はまるで暗闇のなかでひとりでぽつんと宙にうかんでいるような感覚になる。その暗闇は決して冷たくはない。一緒に場にいてくれる人たちのお蔭で、体温のぬくもりがある空間だ。でも、どこに手を伸ばしても反応がない。否定も、同意もない中で話すとは無重力の中で漂うようなこと。

その中で、ただただ沈黙してもいいし、どんな言葉を紡いでもいい。

すると、自分の沈黙も自分の言葉も自分に返ってくる。

 

…(中略)…

 

自分が生きることとは、自分と向き合うこと。自分と向き合うには、この自分だけが暗闇に浮かんでいる無重力の空間が必要だったのだ。

筆者は、自助グループの空間の中では自分自身と向き合うことが出来るという。そうして自分の心の深いところまで見つめることも、逆に向き合わないということも自分次第であるという。

 

話し合いとは、それぞれの意見を持ち寄り、意見を交換することであると思っていた。

しかし、自分の経験や価値観から生まれる判断、意見を一度手放し、相手に身も心も傾けることが自助グループでは重要なルールであった。

 

人は自分を見つめるために相手が必要になる。人の体温、温もり、暖かさのある空間であれば安心や自由を感じられるのだろう。

耳だけでなく全身を傾けてくれる相手がいることが、一人でないという安心と、自分自身に真正面から向き合う勇気を与えてくれるのではないか。

 

それぞれが気づきやきっかけを得るかもしれないし、得ないかもしれない。しかしその場がなければそのこと自体にも気づけない。

話し合うとは、どんな言葉を掛けるかということよりも、他者と共にあること、そこに人の温もりが存在する場が存在することが大事なのかもしれない。

私はこの記事を読んで、言葉のキャッチボールがなく、結論もゴールもない場でも「話し合い」が成立するのだと知った。

 

皆さんは、自助グループを「話し合い」だと思うだろうか?

話し合いで大事なこと、欠かせないことはなにか。話し合うという定義について今一度考えてみたい。

青木文子(あおきあやこ)

愛知県生まれ、岐阜県在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学時代は民俗学を専攻。民俗学の学びの中でフィールドワークの基礎を身に付ける。子どもを二人出産してから司法書士試験に挑戦。法学部出身でなく、下の子が0歳の時から4年の受験勉強を経て2008年司法書士試験合格。
人前で話すこと、伝えることが身上。「人が物語を語ること」の可能性を信じている。貫くテーマは「あなたの物語」。
天狼院書店ライティングゼミの受講をきっかけにライターになる。天狼院メディアグランプリ23nd season総合優勝。雑誌『READING LIFE』公認ライター、天狼院公認ライター。

[参照サイト]

READING LIFE 自助グループを知っていますか《週刊READING LIFE Vol.35「感情とうまくつき合う方法」》

 

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