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聞こえない声に耳をすます

私たちは話し合う生き物だ。ある時はみえない答えをみつけるために、ある時はやり場のない怒りを伝えるために、ある時はなんでもない今を楽しむために。相手が発する言葉に耳を傾け、自身の思いを言葉にして伝えることで、私たちはお互いを理解しあう。話し合いの状況や相手との関係性にあわせて言葉を繊細に操作し、伝えたいことが伝わるように努めるのだ。

 

しかし、言葉はとても切断的な表現でもある。「鉛筆」というと、それは細長い筆記用具のことを指し示すし、「悲しみ」というとネガティブな感情をあらわす。言葉は、意味をわかりやすく伝えるためのコミニケーションの道具といえる。

 

けれども、人間はとても複雑な生き物だ。「自分のことは自分ではよくわからない」というように、私たちが抱える内なる衝動や無意識のうちに形成されてきた価値観は、単純な言葉のかたちをして顔を出してはくれない。私たちはまだ言葉になる前の複雑な心のうちを、少なくとも話し合いの中では声にすることができないのだと思う。

 

以前、synの取材で「話し合いは聴き合いである」という学びがあった。もちろん聞くという行為は、言葉だけではなく表情や手振り、話のトーンなどをひっくるめて、相手の伝えたいメッセージを受け取ろうとする姿勢のことを指す。100%わかりあうことなどできない他人の考え、その背景にある思いを、なんとか汲み取ろうとするのだ、そりゃ簡単なわけがない。

言葉にならない声を聞きとる力こそが、真の「傾聴力」というのではないだろうか。

 

聞こえない声に耳をすますーー

それは、言葉を介さない表現、例えばアート作品を眺める感覚と近いのではないかとぼんやり考えていたところ、今回の紹介記事が目にとまった。

 

私たちは、鮮やかな色使いの絵画や繊細な造形の器をみた時、純粋な美しさを感じとる。対して、あまりに抽象的であったり、これまで見たことのない表現に触れた時には、正直なにがなんだかわからないという感情が生まれることも多いのではないだろうか。アートの鑑賞方法は人ぞれぞれであり、作品から感じとった魅力を主観的に味わう人もいれば、作品が製作された時代や背景、アート史における位置づけなどの知識をもとに客観的に楽しむ人もいる。どちらにも共通するのは、鑑賞者自身の感性と知識を通してしか作品を味わうことができないということだ。

描かれてる主題が現代の価値観からして褒められるものではなくても、そこにあるのは色とかバランスとか造形的な素晴らしさでもあるんですよね。私は美術が好きだから、そういったものに魅力を感じることに嘘はつけなくて。むしろ美術を学んで「すべてを否定することはできない」ってことに気づかされました。

作品に触れて、何かしらを理解すると、自分は自分でしかなくて、人はそれぞれ違う考えや感覚を持っているんだな、ってことがわかります。それは人間にとってとても根本的なことですけど、どこかで忘れちゃうんですよね。

作家は言葉では表すことのできない思いを作品というかたちにして生み落とす。そこから何を受け取り、何を感じるのかは、鑑賞者にゆだねられている。言葉を用いない物を介した対話は、聞き手がいてこそ始まる。1つの作品と意識的にじっくり向き合ってみることは、よい聞き手に求められる傾聴力を養う練習といえるかもしれない。

 

近々、そんなで気持ちで美術館を訪ねてみようと思う。

和田彩花(わだ あやか)

1994年8月1日生まれ。群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月『夢見る15歳』でメジャーデビューを果たし、同年『第52回日本レコード大賞』最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は『菫の花束をつけたベルト・モリゾ』。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。

[参照サイト]

CINRA.NET / 和田彩花「わからない」から始める美術の楽しみ方、その奥深さ

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