話し合いから始まる未来の関係性
今回お話を伺ったのは まちとしごと総合研究所の共同代表で、まちづくりのアドバイザーやファシリテーション講師としてご活躍されている東信史さん。人々の話し合いを支援するプロフェッショナルである東さんに、ファシリテーションの技術はもとより、どのような考えのもと話し合いの場の設計に携わっておられるのかについて語っていただきました。是非ご一読ください。
東 信史(ひがし のぶふみ)
まちとしごと総合研究所 組合員
Thinker / Facilitator
大学卒業後、リクルートにてスクール事業の広報・経営戦略に関する企画営業に従事。同時期に、福岡テンジン大学や greenbird 等の NPO に参加。その後、京都にて NPO 中間支援組織への転職を経て、地域の豊かな資源を活かしたまちづくり、地域づくりを行う「まちとしごと総合研究所」を仲間と立ち上げる。現在は、京都市にて多様なセクター連携から地域・社会の課題解決を目指すプログラム『X Cross Sector Kyoto』の運営の他、企業研修や組織改革のプロジェクト、個人の小商い/ライフデザイン/マイプロ支援などに取り組み、世の中にとってよい関係性を育めるよう活動している。
実現したい未来と現状のあいだを整理する
——今日は東さんがファシリテーターとして普段心がけられていることを通して、話し合いの環境づくりについて考えることができればと思っています。早速ですが、まずは話し合いの前段階のお話からお聞きさせてください。話し合いの場を設計されるにあたって、事前にどのようなご準備をされているのでしょうか。
東 対話の場づくりは、団体や企業の方から依頼を受けて行なうことが多いです。「○○を進めていきたいのですが、どうしたらいいでしょうか」、「○○なことをやりたいのですが、一緒にやってくださいませんか」といったように、話し合いに関するご相談をお受けするところから始まりますが、依頼された通りに企画を行うことはほとんどありません。まずは依頼者がなぜそれを実現したいのか、本当に対話の場をつくる必要があるのか、もっと違う方法はないか、もっと前提に立ち返らないといけないのではないか、といった点からしっかりと時間をかけて話し合いをしていきます。話し合いの土壌づくりは事前打ち合わせの段階から始まっている気がします。
——依頼される方は、どのような目的で話し合いの場をつくりたいと考えていらっしゃることが多いのでしょうか。
東 組織をもっと良くしたいとか、新しいプロジェクトを始めたい時にどうやって話を進めればいいですか、みたいな内容が多いです。大きく分けると、すでにあるチームや組織の人たちで話し合っている場面をより良くするための相談と、初めましての人たちが出会って活動を生んでいくための相談との2種類でしょうか。
——特に後者の場合は事前に考えなければいけないことが多そうですね。
東 そうですね。依頼者によっては、最終的にどんなゴールになったらいいのかが明確な場合もあれば、それがよく分からなくて今困っている、といったようなご相談もあります。なので、どんな成果が生まれたらいいのか、どんな関係性が生まれたらいいのか、あと5年後10年後にどうなっていたいのか、というようなことをお聞きしながら実施する内容を考えていきますね。話し合いの目的が途中で変化するのは悪いことではありませんが、話し合いの場を持つ人、つくる側が最初にどういう意図をもっているのかは整理しておかないといけない気がします。
——なるほど。まずは主催者にとってのゴール設定を明確にするのですね。依頼者の目的や意図も、話し合いによって再整理されているというのには驚きです。

東 まず依頼者の方には、実現したい未来と現状がどうなのかという2点についてご質問をすることが多いです。結局はその間をどうやって埋めるかということが具体的なアクションになると思うので、主にその部分を詳しく聞いていきます。そこから、話し合いの場の具体的なゴールを設定していきます。指標としては数字でもいいですし、関係性でもいいんです。延べ人数100人、200人が参加したほうがいいですか、それとも20人ぐらいで濃く関係をつくってくれたほうが嬉しいですか、繋がった人たちがどんなことを始めてくれたら嬉しいですか、とか。いろいろな質問項目を投げながら、どんな未来を描いているのかを整理していきます。
——設定するゴールによって、話し合いの適正人数や実施する内容も異なっくるんですね。確かに、不特定多数の大人数を集めるイベントのような場と、少人数の決まったメンバーでじっくりと話し合う場では、生まれる結果や参加者が得られるものは全く違ってくるように思います。
東 よい関係性は自己開示をしない限りは生まれません。まずは、いきなり多人数で話すよりも、自己開示できる幅を徐々に増やしていくかたちをイメージしますね。最初は2人や4人から、それが6人になって、8人になって、自分のことを話したり、相手のことを聞いたりということに慣れていくという方法をとります。その規模が100人、200人になってもやることは別に変わらないんです。プログラムの規模感は、どちらかというと運営側の人たちがどのくらい対応できるのかによるのだろうと思います。200人集めて結局20人ぐらいしか熱心に取り組まないのであれば、最初から20人で良いわけですし。200人、300人、1,000人を集めるなら、その上で何をしたいのかということを確認して進めていくという感じですね。
——話し合いを設計するには多くの準備があり、前段階での話し合いが非常に大切なことがわかりました。目的の整理にあわせて、話し合いのルールを設けられることもあるんでしょうか。
東 この前、別のファシリテーターの方々と話をしていたんですが、ルールを決めてやる人とやらない人の2手に分かれましたね。たとえば、「職場でなかなかいいアイデアが出てこないとき、どんな話し合いをしたらいいのか」というご相談があった場合に、安心して話せそうにないという前提が分かっているのであれば、ルールを設けてあげないといつも通りの話し合いになってしまいます。そういうときは「今日の2時間はこのルールで過ごしましょう」と提案して臨むということはありますね。共通のルールを持つことによって場の方向性がみえるので、安心・安全の場がつくりやすくなります。僕は、私語をしないとか、否定しないとか、相手の話をよく聴くためのエチケット的なルールは提示しますが、○○をやってはいけない、などはこちらから提示せずに、参加者の方々に自分たちで決めていってもらえたらと考えています。こちらが全てを決めるというより、こういうルールがありますが皆さんとしてはどうですか、ということを確認していくのが良いかと思っています。
——なるほど。あくまで参加者に場のルールを選んでもらうように提案していくのですね。
東 そうですね。「これは絶対にしないでください」と最初に決められてしまうと、参加者は「なんでだろう」と思ってしまうので。「こういうことはやめてください」という否定的なルールよりも、「こういう方法がありますよ」、「こういう風に伝えてみましょう」など、ポジティブな提案をしてあげるようにしています。
——安心して話ができる環境を整えるためにルールづくりがあるんですね。

ファシリテーションとはなにか ── 話す/聞くから立ち上がる主体性
——話し合いの場には、様々な立場・年齢・考え方を持つ人たちが参加されると思います。話し合いを始める際に工夫されていることはありますか。
東 まず話し合いの最初には「今日はなぜ参加されましたか」とか「今この件に関してどのように期待していますか」といったことを聞いて、参加者がお互いを理解することを大切にしています。例えば2〜3回目の話し合いであれば、「1回目はこうでしたよね」というような振り返りの共有をするとか。
——確かに相手を少しでも知っていると話をしやすくなる気がします。
東 ただ、参加者の中には、会社から指示されて参加される方もいらっしゃいます。そういう人はどうしても、自ら望んで参加している人と熱量が違います。最初のチェックイン(※1)のときに「なぜここに参加されましたか」ということを紙に書いてもらうと、「行けと言われたので来ました..」みたいな人もいれば、今日何をするかよく分からないという人もいらっしゃいます。なので、まずは正直に話をしてもらえるようなチェックインを最初にするんです。たとえば、大学の授業でファシリテーターをする時なんかは、「この授業を選択したくて受講したのか、仕方がなく受講したのかを点数にして教えてください」と聞くことにしています。全然やる気がない状態で話し合いに参加してもらうと、真剣に参加している人がつらい気持ちになってしまいますから。
——まずは参加者に素直な気持ちを話してもらうのですね。でも、あまり参加意欲を持たれていない人がいらっしゃる場合はどのように参加してもらうのがいいんでしょうか..。
東 話し合い開始時のモチベーションが低い方も、せっかく参加して皆さんと出会っているのだから、グループの人たちが話し合いを通して実現したいことを支えてもらいたいなと思っています。自分は話し合いにやる気がないけれども、せめてこの人たちに迷惑をかけないようにしよう、と思ってもらうとか、「今日は聞きに徹します」というかたちでもいいのではないでしょうか。
とはいえ、そういう方も悩みや困りごとをお持ちだったりするので、できるだけ関心に合わせた内容をその後のワークに盛り込むようにはしています。「最初はやる気がなかったけど、やっている間にいろいろ知れて良かった」とか、「話をしてみると意外と意見を共有できるものだな」と感じて帰ってもらいたいんです。最終的には参加者に主体性を持ってもらうことが僕たちの役割なので、本人のモチベーションの高低は関係なく、目的意識を持ってもらえるように話を進めていくように努めています。
——話し合いは複数人で行うものなので、集団のムードは全員の協力で維持するものですよね。本音を明かした上で、1人1人に主体性をもってもらうことが大切だというお話にはとても納得です。
東 参加者の発言回数を増やすのは、自分の本音や意見を出してもらうための1つの方法です。1分間話をしてもらうとか、3〜5秒だけ話してもらうとか、20分間インタビューしてもらうとか、その人が声を出せる機会をたくさん作ることによって本音が出てきやすくなります。もちろん聞く側としての練習も必要なので、相手の声にもしっかりと耳を傾けてもらいます。ただ聞くだけではなくて、なぜそんなことを言っているのだろうとか、その発言の意図はなんだろうと考えながら聞いてもらう練習を最初の段階で実施するよう心がけていますね。

——全員が発言しなければならない状況をつくるんですね。話し合いを始める前の準備体操のようなものでしょうか。最も緊張するのは第1声目だったりするので、参加者はとても助かるように思います。
東 ちなみに、「話をしすぎる人をどうしたらいいですか」といった質問をよくいただくのですが、話をしたい人には話してもらっていいと思っています。ただ、周りの人も話したいのに話せない場合はもったいない。そういう時は、「ご意見熱くお話ししていただいていますが、もしかしたら他の方もお話しされたいかもしれないので、少し聞きつつしゃべってみますか」ということをお伝えする感じです。話が長い人は皆さんに話しているというよりはファシリテーターの僕に話していることが多いので、そのときはその人の正面からだんだん背後のほうに回っていきます。僕が見えない位置で近くにいるので、すごくプレッシャーをかけている感じになります。(笑)他の方々は僕の方を見ていただけるので、目が合った方に「今のご意見、○○さんはいかがですか」などと言ってお話を振っていくようにしています。
——..巧みな技ですね!(笑)
東 また、逆に話をしていない人にもいくつかのパターンがあります。本当は意見を持っているけれども勇気が出なくて話せない人は、お名前を呼んであげたら答えていただけます。意見がわいてこなかったり、そもそも今何を話しているのかが分からない、みたいな場合もあるので、そういうときには、「今はこういう議論になっていますが、わからない点はありますか」などと確認しながら促していくという方法もありますね。
——参加者全員の「話す」と「聴く」をサポートするのがファシリテーターの役目なのですね。
東 僕自身は黙って話を聞きながら、「この状況はどうしたらいいのだろう」と考えていることが多いので、黙っている人も頭では考えているのだと思っています。なので、みんなが喋らないときには黙っている人の発想が広がるようにたくさん意見を言ってみるなど、参加者同士が促しあいながら話し合っていくのが1番よい気がしますね。

——話をしやすい環境を整えつつ、参加者の主体性に委ねる。ファシリテーションの奥深さを改めて感じます。ちなみに、2020年はオンラインでの話し合いの場が増えた1年でもありました。話し合いの環境づくりという点でいうと、画面越しの話し合いはこれまでと比べていかがでしょうか。
東 まだ完全にわかったわけではないのですが、オンラインの方が設計の難しさがあると思っています。オフラインでは、人が集まっているとなんとなく雰囲気でどうにかなったり、その都度声をかければサポートできていたんですが、オンラインだとプログラムをしっかり組んでおかないと進みづらかったり、メッセージが伝わりづらかったりします。一部の人に対して軽く声をかけることも難しいので、そのあたりの設計が難しいなと思っています。
また、オンラインはずっと無機質な環境です。会場を装飾して、音楽をかけて、コーヒーの香りがして、という環境がつくれないので、これまでとは準備の性質が変わってきている気がします。一方で、今まで来られなかった人が全国各地から参加できるようになりました。僕たちもなにも準備をしなくてよくなったので、ワークショップ用の模造紙や、会場の手配もいりません。話し合い自体のために時間をかけることができるようになった気はしますね。
——雑談や簡単なコミュニケーションが難しいからか、オンラインは話が弾みにくいように感じています。自分の意見を最後まで聞いてもらいやすくなったという利点もあるのですが。
東 確かにそうですね。オンラインでは、これまでよりも考える時間と発言する時間を明確に区切ってあげたほうが良さそうです。対面だと、付箋に意見を書いてもらって発言するという方法が簡単で楽しかったりしますが、オンラインではその方法が取っ払われてしまったので、「では、意見ありますか」といきなり話し出すことが増えがちだったように思います。最初に手元の紙に意見を書いてもらったり、webの共有シートやチャットを使って自分の意見を考えてから発言をするというステップを踏むことによって、会話が生まれやすい環境づくりができるはずです。
——参加者の聞く、考える、話すを支援するというファシリテーターの役割に立ち返ると、どんな場面でも力は発揮できるということですね。相手の気持ちを汲み取ることは、話し合いの当事者にとっても大切な視点だと感じます。
「成果」の外側に生まれる新しい関係性
——ここまで話し合いの場の設計過程から、様々なシチュエーションでの話し合いについて伺ってきました。数多くの話し合いをサポートしてこられた東さんは、「よい話し合い」を今どのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
東 話し合いの中で新しい視点や価値観に気づけたりして、お互いが変容しながら理解し合い、つながっていける。それがいい話し合いなのではないかと思っています。皆さんが発言される意図や言葉がきちんと拾われて、最初には見えなかったことが見える化されていったり、新しい気づきによって新しい考えや視点を持てるようになって、始まる時は思いもしなかった話が出てくるような場づくりを目指しています。
——よいファシリテーターに必要な心構えともいえそうです。
東 そうですね。ファシリテーターは参加者に寄り添うことは前提として、参加者と一緒に諦めずに考え続けることが大事だと思っています。必要なスキルといっても、具体的な声かけやふるまいの方法は場の目的次第で変わってきます。もっと新しい答えやアイデアが出るようなファシリテーションのほうがいいという意見はあるかもしれませんが、参加した人たちが主体的に考えたり、気づかなかったことに気づけたり、一緒にお互いのことを理解して何かが始まっていくというほうが僕は好きなんです。そのためにわざわざ話し合いをしてもらっているので、新しいアイデアの数や売上の大きさはあまり問題じゃないんです。
——成果は「形」にこだわらないのですね。

東 以前働いていた企業では結果を出すことが売上に直結していたので、今の仕事を始めた当初はまちづくりの話し合いも結果がでるまで話をしたらいいのにと思っていました。その頃はプログラムをきっちりと作りこんで、ワークシートをたくさん使いながら進めていたんですが、流れについてこれなくて辞めちゃう人もいたんです。その結果から見えてきたのは、問題を解決することだけではなく、街に知り合いが増えたり、困ったときに声をかけあえる関係性をつくることも皆さんにとっての楽しさだということです。もちろん依頼に対して結果を残すのは大事ですが、参加者が仲良くなって楽しいのであればそれでもいいのかなと思います。
——話し合いをする主役が楽しくなければ意味がない、と。東さんがつくられている話し合いは、関わる人の数だけ多様な楽しみが生まれているんでしょうね。
東 僕たちがつくるプログラムは、話し合いから帰った後で何かが始まったり、意味が生まれるような内容を意識しています。セミナーや研修を聞いたところですぐに何かができるようになるわけではないので、まずは同じ悩みを持った人同士が話して、何が悩みなのかが分かった上で、明日から一緒に考えていく仲間ができるというのが大事なんです。MIT元教授のダニエル・キムさんが、関係性の質が良ければ多くのことがうまくいくという「成功循環モデル」を提唱されていますが、本当にその通りだと感じます。
——話し合いはよい関係性をつくるために大切なんですね。
東 自分が考えていることや潜在的に感じていたことを本音で話せたり、相手にちゃんと話を聞いてもらえる環境があるという前提があって、お互いを理解しあうことが可能になります。
そのために、事前に申し込み理由と属性を聞いておいて、イベントが始まる時点で皆さんの共通点を伝えたり、当日のチェックイン時にお名前と所属と参加した理由を話すようにするんです。あとはインプット情報を得たあとにどう思ったとか、何が学びだったかを共有する。皆さんの中にあるものをいろんな点から引き出して、お互いを知り合ってもらうことを繰り返すことで共有財産を持ってもらいたいんです。その上で同じ悩みやチャレンジを考えている人がいたら、つながって次の1歩に進んでほしいと思っています。
——話し合いは終わりではなく、何かが新しく始まるきっかけなんですね。未来の関係性を見据えた話し合いの可能性を感じました。ファシリーテーションの実践者と話し合いの当事者の双方に通ずる心構えを学ぶことができたように思います。今日はありがとうございました。