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脱力するから、会話も活動も続く

コロナ禍のポッドキャストブーム以前から約7年間にわたって配信を続け、2024年時点で累計再生回数は700万回を超える「ゆとりっ娘たちのたわごと(以下、ゆとたわ)」。“カフェで聞こえる会話を盗み聴きできるポッドキャスト”をコンセプトに、たわいもない雑談からじっくり考えたくなる話題まで、かりんさんとほのかさんによる会話を楽しめる。仕事でもなければ趣味でもない、二人が「ゆとたわという、唯一無二のジャンル」と話すこの活動がなぜ7年も続いているのか。その理由を聞いてみた。

ゆとりっ娘たちのたわごと

スタバの端っこで繰り広げられるような、ゆるいOLの会話を盗み聴きできるポッドキャスト。
子どもから大人まで、くすくす笑えてちょっと深まる「大人版ちびまる子ちゃん」的世界観でお送りしております。
https://yutotawa.jp

「こうなりたい」を持たずに始めた

ー活動を始めて7年経ちますが、どんなきっかけでポッドキャストを始められたのでしょうか?

 

かりんさん(以下、か):大学生の時、二人で新潟県の越後湯沢に旅行に行ったのですが、片道3〜4時間かかる鈍行列車でたわいもない話をずっとしてたんです。会話が弾んで一気に距離が縮まったことがきっかけになりました。

 

ほのかさん(以下、ほ):ゆとたわを始める3年前に、自分のブログに「今年の目標はポッドキャストをやること」と書くくらいやってみたい気持ちはあったのですが、かりんちゃんと会話の波長があって、私から「ポッドキャストやってみない?」と誘ったことがはじまりです。

 

か:私も元々ラジオはよく聞いていたのですが、2017年ごろは一般の人が配信するポッドキャストはまだまだ少なく、あったとしても仕事や勉強のHOW TOを話す番組が多くて、雑談系の番組は少ない印象でした。自分自身が雑談をしたい気持ちもありましたが、「もっと雑談系の番組があったらいいな」という気持ちも当時はありました。

 

ー当時「○歳まではやろう」など、続ける意識や目標などはあったのでしょうか?

 

ほ:そういう話は全くしなかったよね。

 

か:半年経った時に「半年も続いてる!」って話したくらい、ただただ「配信してみたら面白そう」という好奇心だけで始めました。でも、今思うと「この番組みたいになりたい」とか「リスナーを◯人にしたい」とか、そういう目標を掲げていたらどこかで息切れして辞めていたと思います。

 

ほ:ゆとたわは、続けることを珍しく意識しなかったんですよね。英会話とかスポーツジムなどの習慣化したいことは続けるための方法を調べたり考えたりするんですけど、そういうことに限って三日坊主になったり、一年後に思い出したかのように再開したりするんですが…。

 

ーただ、ポッドキャスト配信も、英会話やスポーツジムも、日を決めて実行する点では同じようにも感じます。そこにはどんな違いがあるのでしょう?

 

ほ:ゆとたわは、友達と遊ぶ約束を決める感覚に近いから続いているのかもしれません。遊ぶ約束の先に、収録があるというか。

 

か:2人で活動していることも大きいと思います。友達との約束はドタキャンできないですしね。

配信頻度は「減らす」より「増やす」があっていた

ーお二人は活動も長く続いていますが、会話が長く続くのはなぜだと思いますか?

 

か:一つは、会話のリズムの相性が良いのだと思います。元から会話の波長は合う方でしたが、長く一緒に活動するにつれて、よりリズムが一致してきている感覚があります。テンションが上がった時に早口になるところとか、相槌を打つタイミングとか…。

 

ほ:過去の配信回でも「会話と音楽は案外似ているのかも」っていう話をしたよね。

 

か:あとは、心理的安全性があることも大きいと思います。自分が出した話題に対して「何それ?意味わかんない」と頭ごなしに言われてしまうと怖くて何も話せなくなってしまいますが、ゆとたわでなら何を言っても否定されないと思えているから、なんでも話せる安心感があります。

 

ほ:ただ、一口に「否定されない」と言っても、相手の過剰な気遣いで否定されないというケースもあると思います。そうなると、こちらも相手の話に踏み込めなくなり、何を話して良いかわからなくなると思います。その点、ゆとたわではそうした過剰な気遣いもなければ、否定もない。二つが両立しているから会話が続くのだと思います。そのおかげで「こんなことやってみたい」という気持ちも共有しやすいので、心理的安全性は楽しく活動を続ける上でも欠かせない気がします。

 

ー逆に、続けるためにやめたことはありますか?

 

ほ:やめたことと言えるか分かりませんが、お互い仕事が忙しくなった時期に週2回の配信を週1回に減らしたことがあったのですが、なんだか物足りなさのようなものを感じて…。週1回はやめて、週2回に戻したことはあります。

 

か:“一球入魂”じゃないですが、一週間に一本しか出せないとなると、「面白いネタを探さなきゃ」という焦りが出て、逆に息苦しくなったんです。ある時、本編を録った後にファンクラブ限定のアフタートークを録ったらそっちの方が面白くなってしまったことがあって、アフタートークを本編に回したこともあります。脱力してる方が面白い話ができるんだなって思いました。

 

ほ:週1回のときは投球数が足りていない気持ちになったよね。頻度を減らしたからといってクオリティが上がるわけではないのだと思いました。

 

ー楽しく続けるためには「減らす」より「増やす」が合っていたんですね。

 

ほ:私もかりんちゃんも、一つの目標に向かって一直線に進むタイプではなくて、いろんな道を行ったり来たりしながら、あちこちに思考やアイデアを散らかすことで面白いことを見つけたいタイプなんです。そういう性格も関係していると思います。

コロナ禍を経て、話題のきっかけは外から内へ

ー7年の活動を経て、どんな変化がありましたか?

 

か:活動初期は本当にたわいもない雑談をしたり、誕生日サプライズのような企画ものをやったりすることが多かったのですが、最近では一つのテーマについてじっくり話したり、“概念的な話”をすることが増えました。ここでいう“概念的な話”の例を一つ挙げると、2024年3月に配信した「浦島太郎か桃太郎、付き合うならどっち?」という回では、「桃太郎は鬼退治という目的に向かって仲間を集め一直線に突き進むタイプ、浦島太郎は流れに身を任せて竜宮城に行っちゃうような行き当たりばったりな人生を楽しむタイプ」と表現した場合、自分はどちらのタイプなのか、恋人にするならどちらのタイプがいいか、などをあれこれ話していました。

 

ほ:ちなみに、私たちは完全に浦島太郎タイプです。

 

ー先程の「行ったり来たりしながら考えたい性格」という話にも繋がりますね。話題が変化したのはなぜなのでしょう?

 

か:なんでだろう、年齢の変化もあると思いますが…やっぱりコロナが大きいかもしれません。

 

ほ:コロナ禍はかなり影響していると思います。それまでは、会社の人や友人などと過ごす時間が長く、外からの情報で気が紛れてましたが、コロナ禍でふと1人になってからは自分の価値観や考え方など、内に目を向けたくなりました。その時は二人とも“内省モード”になってたもんね。

 

か:外出できなくなって、外から会話のネタを仕入れられなくなったことも大きいよね。私は芸人さんのラジオへの憧れもあって、昔は闇鍋をしたりゲストに元彼を呼んでみたりと、体を張った企画もやっていたんです。だけど、コロナ禍で自分の考えを言語化したくなったことや、自然体の会話の方がリスナーさんに楽しんでもらえるように感じたこともあって、時には真面目なテーマも話すようになりました。

ゆとたわは人生を楽しみ尽くすきっかけ

ーお二人にとって、ゆとたわはどんなジャンルの活動なのか意識したことはありますか?

 

か:仕事とか趣味とか、既存のジャンルでは括れない気がします。というよりは、名付けたくないのかもしれません。

 

ほ:ジャンルは分からないですが、やってみたいことに色々チャレンジできるきっかけの場所になっている感覚はあります。「やってみたいけど挑戦できていないこと」って誰しもあると思うんですけど、私にとってはポッドキャストがその一つでした。けれど、一個踏み出したら次にやってみたいことがどんどん浮かんできて、「失敗してもゆとたわで喋れる」と思えるようにもなりました。フットワークがすごく軽くなって、違う人間になったような感覚というか…。ゆとたわは、人生を楽しみ尽くすためのきっかけになっていると思います。

 

か:私もほのちゃんも基本的には謙遜姿勢なので、一人でこの活動をやろうと思ってたら踏み出せなかったと思います。二人で作ったゆとたわという土台があるおかげで、ポッドキャスト以外にも、コントに挑戦してみたり、曲を作ってMUSIC VIDEOを出したり、絵を描いてグッズを作ったりと、突拍子もないことにも挑戦できます。

 

ーカップの受け皿に準えてリスナーさんのことを「ソーサー」と呼んでいることは、結果的にピッタリな名前になったんですね。

 

か:こぼれたコーヒーをソーサーがキャッチするように、「私たちの活動を温かい目で受け止めてもらえたら嬉しいな」という希望もあって「ソーサー」という呼び名にしたのですが、まさかここまで願っていた関係が築けるとは思っていませんでした。

 

ほ:ソーサーのおかげでゆとたわは成り立ってるよね。

 

か:最近だと、ソーサーが集まって交流できる「逆に団」というコミュニティも作ったのですが、海外旅行に一緒に行くほど仲良くなった人がいたり、結婚に発展しそうなカップルが生まれたりもしていて。ゆとたわがなかったらそうした人間関係は生まれていなかったと思うと嬉しいです。一方で、何年経っても変わらずおたよりを送ってくれる人がいたり、昔と同じようにゆとたわの世界を大切にしてくれる人がいたり。そうやって、変わることも変わらないことも、どちらも自然な形で続いているのを感じられるのが素敵だなって思います。

 

ほ:私たちも、これからきっといろんな分岐点に出会うと思います。でも、その時々で「自分らしさ」を大切にしながら続けていければ、また新しい景色が見えてくる気がしています。だから、続けるかやめるかを考えるときが来ても、自分の意思で「続ける」を選びたいと思います。

取材日:2024年9月27日

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